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構造力学II第3回

小さい字は補足説明や余談なので、読み飛ばしてもいいです。

このページのオリジナルの作者は 後藤文彦です。
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構造力学IIオンライン授業用テキスト
第3回オンライン授業

目次

直ひずみをのび成分と曲げ成分に分解

前回の話によると、 初等梁では軸方向の直ひずみ$\varepsilon_{zz}$しか生じないのだが、 断面の各部分が軸方向にしか伸び縮みしないのに、 そんなんで、梁全体はどうやって曲がるんだろうか。 右の絵のように、梁の上の方はちょっとしか伸びなくて(あるいは縮んで)、 梁の下の方がいっぱい伸びると、梁は曲がるのだ。 実際の細長い棒でも、そういうことが起きていると考えられる。 例えば、ひまわりの花が、太陽の方を向く理由を理科で 習うと思うが、茎の光の当たる側はあまり伸びずに、 光の当たらない側の方がよく伸びるから、 茎全体としては、光の方に曲がるということだったと思う。

そうすると、直ひずみ$\varepsilon_{zz}$は、断面の上の方と下の方とで、 大きさが違うから$\varepsilon_{zz}(y,z)$みたいに、高さ$y$にも依存する 関数として与えなければならない。 第1回で、 せっかく 梁の断面の変位は図心で代表させて、 $v(z), w(z)$みたいに図心を通る$z$座標だけの関数で表すことにしたのに、 直ひずみ$\varepsilon_{zz}(y,z)$が断面の高さ$y$に依存するのは ちょっとやっかいだ。 直ひずみ$\varepsilon_{zz}(y,z)$を図心変位$v(z), w(z)$を使って表したいが、 そんなことができるだろうか。

というわけで、まずは、直ひずみ$\varepsilon_{zz}(y,z)$を 右上の絵のような一様な伸び成分 $\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)$ と一様な曲げ成分 $\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)$ との足し算で表せるように分解してやる。 実際の直ひずみ$\varepsilon_{zz}(y,z)$の分布は、 上の方がちょっとだけ伸びて、下の方がいっぱい伸びてという 台形分布をしているのだけど、 これを「上から下まで一様な伸びの成分」$\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)$ と 「図心位置ではのびちぢみがなく上がちぢんで下がのびてる成分」 $\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)$ との 足し算に分解するのだ。
$\varepsilon_{zz}(y,z)=\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)+\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)$
そうすると、 まず直ひずみの伸び成分 $\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)$については、 高さ$y$によらずに断面のどの高さでも値は同じなのだから、 これは 図心位置の軸方向変位$w(z)$を用いた 図心位置の直ひずみ$\varepsilon_{zz}(z)=w'(z)$を使って、 $\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)=w'(z)$と表せるだろう。 高さ方向に一様だから、$y$には依存しない。

直ひずみの曲げ成分の表し方

では、直ひずみの曲げ成分 $\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)$については、 図心変位の$v(z)$や$w(z)$を使って表せるだろうか。 右の絵のように、 初期状態の梁の微小なスライスを考える。 この微小なスライスが梁の変形後、 図心位置($y=0$)は伸び縮みせず、 上の方は縮んで、 下の方は伸びてバームクーヘン状になったものとする。

このバームクーヘンを拡大したものを描き直す。 ベルヌーイ・オイラーの仮定により、 断面は上面や図心線や下面と直交しているとする。 このバームクーヘンの図心線の曲率半径を$R$とし、 その中心角を$d\theta$とする。 バームクーヘンの 図心位置($y=0$)は,変形前から伸び縮みしておらず $Rd\theta$の長さなのに対して, 図心位置から下に$y$下がった位置では, 伸びて$(R+y)d\theta$の長さになっている。 つまり,高さ方向の位置$y$での直ひずみは, 変形前の微小部分の長さ(図心位置の長さ)に対する変形後の伸びの比率だから、 直ひずみのときの要領で考えると、 次式で表される。 $$\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)=\frac{(R+y)d\theta-Rd\theta}{Rd\theta}=\frac{y}{R}$$

さて,曲率半径$R$と微小な角度$d\theta$, そして この微小な部分の$z$方向の微小長さ$dz$には, 右の図のように, 近似的に$dz=Rd\theta$のような関係があるから, ${\displaystyle \frac{1}{R}=\frac{d\theta}{dz}}$と変形できる。 $\frac{d\theta}{dz}$は、$d\theta$割る$dz$ということだが、 微小量どうしの割り算は、微分とみなせるので、 $\theta$を$z$で微分したものとみなしてやる。 また, 梁のたわみ$v(z)$が, $z$の正方向の増加に対して,$y$の負方向に増加する傾きを ${\displaystyle \theta=-\frac{dv}{dz}}$で表すと, $d\theta$は,$z$から$dz$離れたところで梁がどれだけその傾きを増加させたかを 表している。 $\theta$が 「$z$の正方向の増加に対して,$y$の負方向に増加する傾き」という 意味は、 $\theta$(厳密には$x$軸まわりの回転角なので $\theta_{x}$)は$x$軸右ねじ回りに取っている(この図では反時計回り)ということ。 $v$が$z$の増加にともなって$y$の正方向に増えると時計回りになってしまうので マイナスをつける必要があるということ。 この図では$z$の増加にともなって $v$が$y$のマイナス方向に増えているから$v'<0$で、 $\theta=-v'>0$となっている。 わかりにくいかもしれないが、 座標系$(x,y,z)$や回転角$(\theta_{x}, \theta_{y}, \theta_{z})$というのは、 右手系に取らないと様々な不具合があるので、 右手系にするために、マイナスがついているということ。 まあ、物理的なイメージがわかれば、符号は、そんなに悩まなくてもいい。
${\displaystyle \frac{1}{R}=\frac{d\theta}{dz}}$に ${\displaystyle \theta=-\frac{dv}{dz}}$を代入すると、 ${\displaystyle \frac{1}{R}=-\frac{d^{2}v(z)}{dz^{2}}}$となる。 これを ${\displaystyle \varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)=\frac{y}{R}}$に代入すれば 直ひずみの曲げ成分は 次式のように表される。

$$\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)=-y\frac{d^{2}v(z)}{dz^{2}}=-y\,v''(z)$$

${\displaystyle \frac{1}{R}=-v''(z)}$は, 曲率を表しており,ひずみ$\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)$は,ある$z$点の断面では高さ$y$方向に対して, 曲率に比例する線形分布をしていることがわかる。

初等梁のひずみ-変位関係

さて、 初等梁に発生する唯一の直ひずみ$\varepsilon_{zz}(y,z)$を 一様な伸び成分と曲げ成分とに分解して、 それぞれを図心変位$w(z)$や$v(z)$の微分を用いて表すことができた。 これらを足し算すると、以下のように表せる。

$\varepsilon_{zz}(y,z)=\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)+\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)$
つまり、
$\varepsilon_{zz}(y,z)=w'(z)-y\,v''(z)$

この(梁限定の)直ひずみの 伸び成分$\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)=w'(z)$のことを「のびひずみ」や「軸ひずみ」と 言ったり、 曲げ成分 $\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)=-y\,v''(z)$ のことを「曲げひずみ」と言ったりする習慣(特に後者)もあるかもしれない。 しかし、 これらは、あくまで梁の直ひずみの のび成分と曲げ成分であって、 一般的な物体の 直ひずみせん断ひずみという区別の他に 「曲げひずみ」があるわけではないので混乱しないように。 だから、ここでは、いちいち「直ひずみののび成分」とか「直ひずみの曲げ成分」と 言うようにしている。

(目次)

ひずみの三角形分布

./png/hari_3kaku.png さて、梁モデルでゼロにならない唯一のひずみは、梁の軸($z$)方向の 直ひずみで、次式のように表されることがわかった。
$\varepsilon_{zz}(y,z)=w'(z)-y\,v''(z)$
今、梁のある断面、例えば$z=z_{A}$でのひずみの分布がどうなっているかを 考えてみる。上の式に、 $z=z_{A}$を代入してみると、
$\varepsilon_{zz}(y)=w'(z_{A})-yv''(z_{A})$
となる。$z_{A}$はある座標の値で、定数だから
$w'(z_{A})$や$v''(z_{A})$も定数であるので、 例えば、$a=-v''(z_{A}), b=w'(z_{A})$とおけば、 $\varepsilon_{zz}(y)=ay+b$となり、これは、$y$についての1次式で 線形の(直線状の)分布になっていることがわかる。 $a=-v''(z_{A})$が傾きで、 $b=w'(z_{A})$が$z$軸の切片だから、グラフに描くなら、 図のようになる。 つまり、 初等梁 では、軸方向ひずみ$\varepsilon_{zz}$だけが存在し、 任意の断面の軸方向ひずみは、梁の桁高(けただか)$y$方向に対して線形分布 している。 これをひずみの三角形分布と呼ぶ。

./png/hari_3kaku.png 上の図のように、梁の断面上にひずみ(や次回やる応力など)の分布を 重ねて描くということはよくやられるが、 慣れないとちょっとわかりにくいかもしれないので、補足する。 図の断面$z=z_{A}$上に$y$軸を持ってきて、 $z$軸を$\varepsilon_{zz}$としてグラフを描いているということである。

./png/hari_3kaku.png 切片や傾きというと$x$が右向きで$y$が上向きの $y=ax+b$でないとイメージしにくい人も いるかもしれないので、念のため、 回転させた絵も貼り付けておく。

さて、 上記では、 梁の直ひずみ$\varepsilon_{zz}$と図心変位との関係を 導くのに、なるべく物理的にというか図形的にイメージしやすいことを優先して、 細かい話は、適当にごまかしている。 もう少し、 ベルヌーイ・オイラーの仮定 ($\varepsilon_{yz}=0$)から、 数学的にというか演繹的にすっきりと導くやり方もある。 ただ、これをやるには、ひずみテンソルの 話をしなければならないので、最近は教えていない。

例題

例題1

$dz=Rd\theta$と表せるとき、 梁軸($z$)方向の直ひずみの曲げ成分 $\varepsilon_{曲げ}$を$R$と$y$を用いて表わせ。 答えはここ

例題2

$dz=Rd\theta, \; \theta(z)=-\frac{dv(z)}{dz}$ と表せるとき、 $\varepsilon^{曲げ}_{zz}$を$R$と$\theta$を用いずに表わせ。 また、$z=z_{A}$断面での$\varepsilon^{曲げ}_{zz}$の分布を図示せよ。 答えはここ

例題3

梁軸($z$)方向の直ひずみののび成分が
$\varepsilon_{zz}^{のび}=w'(z)$
曲げ成分が
$\varepsilon_{zz}^{曲げ}=-yv''(z)$
と表されるとき、 $\varepsilon_{zz}^{のび}$の分布と $\varepsilon_{zz}^{曲げ}$の分布をそれぞれ(別々に)図示せよ。 答えはここ

例題4

初期状態で$z$軸に横たわる長さ$\ell$の梁の変形後のたわみが ${\displaystyle v(z)=\frac{z^{3}-3\ell z^{2}}{a^{2}}}$
軸方向変位が${\displaystyle w(z)=\frac{\Delta\ell}{\ell}z}$
で表されるとする。 このとき、梁の軸方向直ひずみ$\varepsilon_{zz}(y,z)$を求めよ。 また、 梁の中央$z=\frac{\ell}{2}$における$\varepsilon_{zz}(\frac{\ell}{2})$を求め、 $z=\frac{\ell}{2}$の断面での$\varepsilon_{zz}$の分布を図示せよ。
答え (マウスで領域選択すると見える):
$v'(z)=\frac{3z^{2}-6\ell z}{a^{2}}$
$v''(z)=\frac{6z-6\ell}{a^{2}}=\frac{6}{a^{2}}(z-\ell)$
$\varepsilon_{zz}^{曲げ}(y,z)=-yv''(z)=\frac{6}{a^{2}}y(\ell-z)$
$\varepsilon_{zz}^{のび}(y,z)=w'(z)=\frac{\Delta\ell}{\ell}$
よって、 $\varepsilon_{zz}(y,z)=\frac{6}{a^{2}}y(\ell-z)+\frac{\Delta\ell}{\ell}$

2022年度小テスト: 小テスト221026
2021年度小テスト: 問1, 問2, 解答
2020年度小テスト: 問1, 問2, 解答

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メモ: