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お知らせ

一人でつくるかまくらのつくり方

自重を支える雪構造物の効率的施工と耐久性についての考察

秋田市は、秋田県内ではそれほど積雪量が多いほうではないものの、 かまくらなどの雪構造物をつくるには十分な量の雪は降るので、 かまくらや雪アーチ橋づくりを モノづくり系の授業(創造工房実習)のネタとして 利用できないかと思ったのだが、 一番 雪が積もっているのが1月から2月の時期で、 授業の成績をつけるための成果物の提出が2月の上旬とかだから、 なかなか難しい。 まあ、それはともかく、 何かのネタに使えることもあるかも知れないので、 ここに置いておく。

背景

私は宮城県の石巻市に生まれ育ったが、 雪は降り積もるものの、 かまくらをつくるには十分な量ではない。 それに、たまたま大雪が降ったりしても、 子供時代の私にはかまくらをつくるだけの技能や 体力(締め固めに必要な体重)がなかった。 だから、かまくらをつくることは、 子供時代からの長年の夢でもあった。 私は2002年に秋田に来て、 二人の子供も生まれ、 子供たちが雪遊びをする年頃になってきたので、 絶好の機会なので、 2010年からかまくらづくりに挑戦してみた。

くりぬき方式

ウェブで色々と調べてみると、 雪を積み上げてから中を繰り抜く 伝統的なかまくらをつくるには、 なかなか大人数が必要なようで 、 一人で週末とかにつくれるようなものではないようだ。 試しに、 雪かきのついでに雪を高く積み上げて、 まわりをスコップで叩いて固め、 中をくりぬいてみたのだが、 クリープにより、日ごとにつぶれていき、 数日のうちに用をなさなくなった。 やはり、くりぬき方式をやる場合は、 円筒状に高く積み上げて、大人数人で締め固めるなど しないと、どんどんクリープによる変形が進行するようだ。 ちなみに、 締め固めの問題は解決できるとしてくりぬき方式をやる場合、 厚さの目印が必要なので、 外側から着色した同じ長さの棒(長めの割り箸とか) をたくさん突き刺したりしておくとよい。

ブロック方式

という訳で、 かまくらづくりでは雪材料を十分に締め固めることが、 クリープを防止する上で非常に重要である。 そこで、プラスチックケースに 雪をつめて体重で締め固めてつくった雪ブロックを 重ねていくことにした。 まずは、かまくらをつくる地面を平らに整地して 踏み固めておく。 広範囲をおおざっぱに踏み固めるには、 スキーを履いて踏み固めるのも効率がよい。 ある程度、平らな用地ができあがったら、 スキーのストック2本をコンパスのようにして、 土台部分に円を描く。 そこを踏みつけながら締め固め、 くぼんだら、雪を足して更に踏み固めていく。 しっかり踏み固めるには、スキー靴を履いて踏み固めるのがいいかも知れない。 自重による基礎の変形を防ぐために、土台部分の踏み固めは 重要である。 踏み固めによって、土台部分の円周の目印が不明瞭になったら、 改めてストックをコンパスにして円周の目印をつけておく。 プラスチックケースは、 30cm × 26cm × 26cm ぐらい以上の大きめのものを使う。 この手のケースは、お互いを重ねあわせられるように、 底の部分がやや狭く(つまり四角錐台のような横から見ると台形の形に) なっているが、壁面を少しずつ内側に傾けて積み上げるには、 この傾斜がむしろ都合よい。 雪がさらさらしているとなかなかねっぱらず、 締め固まらないので、そういう場合は、 ジョウロで水を入れながら締め固める。 大きい面を外側にして並べていく。 エスキモーの イグルー のように螺旋状に積み上げるのは 難しいし、入口部分を後から削ったりといった 無駄な材料はなるべくつくりたくないので、 入口部分に隙間を空け、1段目、2段目、と段々に重ねていく。 ブロックとブロックの接続は、 ブロックを中心角が揃うようにヘラで削ってきっちりくっつけるよりは、 ブロックとブロックを並べてできた隙間部分に 雪と水を混ぜてつくった雪シャーベットをモルタル代わりにして 詰め込みながらねっぱしていく方が、 せっかく締め固めた雪ブロックの体積を無駄にしない。 イグルーのイメージがあると、 ついついブロックを削ってぴったりとくっつけてみたくなるが、 材料と時間の節約という観点からは、 ブロック+モルタル方式の方が効率が良い。

ドーム曲面形状

2段目は、 1段目の上に雪シャーベットをのせてブロックをくっつける。 この雪シャーベットののせ方で、 ブロックの傾き(全体としてのかまくらの曲線形状)を調整することになるが、 2段目とか3段目では、まだ内側にあまり傾けない方がいい。 自重に圧縮で抵抗するのに有利なドーム形状は、 懸垂曲面(カテナリー曲面)だと思うが、 雪はクリープによる変形が大きいので、 扁平なドーム形状ほどクリープが進行しやすいのではないかと思う。 だから、橋梁のキャンバーのように、 クリープによるつぶれを考慮して、 尖頭アーチのような高めのドーム形状にした方がいいのではないかと思う。 また、カテナリードームや球形ドームでは、 子供が立てる程度の内部の高さを確保するには、 かなり大きめの円周にする必要があり、 しかも曲率を調整して積み上げるのが難しい。 写真は、球形ドーム状を意識した2012年の作。

尖頭アーチ

その点、 尖頭アーチは、 直径1mちょっとの円周でも、身長1.4m程度の子供が立てるぐらいの 高さを確保できるし、 最後の屋根の部分の合わせ方がやりやすい。 3段目ぐらいまでは、あまり傾けずに円錐状に重ねていく。 2段目のブロックは、ブロックの継ぎ目が1段目と互い違いになるように 重ねたいが、2段目の方が1断面よりも周が短くなっているため、 ある部分で継ぎ目がずれるように重ねたとしても、 何個か置いていくと、下の段と継ぎ目が一致するところも出てきてしまう。 だから、その辺はあまり気にせずに、 雪シャーベットでしっかり接着・固定していく。 4段目ぐらいから、屋根を意識して傾けていく。

三角屋根方式

ブロックを削って球形ドーム状に重ねるのは結構 難しいし、 せっかく締め固めてつくったブロック材料が削られたぶん 無駄になってしまうので、 むしろ、三角屋根(多角錐)的に数面から寄せてきて、最初にくっつきそうな頂部を 接合し、残った空隙を削ったブロックと雪シャーベットで埋める のがいいのではないかと思う。 三角屋根方式の方がクリープにも強いのではないかと思う。 写真は、 2010年作のやや小さめの三角屋根方式と、 2013年作のやや大きめで採用した三角屋根方式。 三角屋根方式の場合、入口の反対の奥側からブロックを重ねていった方が、 屋根を確実に接着しながら整形しやすい。 屋根の部分のブロックは、適宜、ブロックの縦横を変えたりして、 左右から貼り出してきた屋根が頂部で接合しやすいように調整する。 奥側から屋根を前面に張り出してきて、最後に入口を整形する。 入口の上部にブロックの梁を貼り出させるのは非常に難しい。 屋根を十分に前面まで張り出させ、 側面と上面から、ブロックを雪シャーベットでくっつけられそうな 箇所に少しずつ貼りつけながら、入口上部の隙間を狭くしていく。 入口上部にブロックを貼り付けてもすぐに落ちてしまって 難しい場合は、雪シャーベット(というか雪粘土)で整形しても構わない。








2013年作。140cmの子供が立てる。(1/14)


約1ヶ月で頂部が20cmほど沈下しただろうか。(2/17)


3/7, 3/9
高めの尖頭アーチ(2014年作)

2013-2014の冬は、雪の降り始めが遅く、 1月なかばに結構 降ったが、 気温が高めで、雪がびちゃびちゃしていたので、 水を混ぜてシャーベットにしなくても、 雪がねっぱりやすく、そういう意味では作りやすかった。 ただ、1/26の製作時の時点では、雪がけっこうやわらかかったので、 すぐにつぶれるのではないかと思いつつ、 ためしに、結構 高めの尖塔アーチにしてみた。 クリープがどれくらいの速さで進行するのか、 一週間おきに床と天井(最高点)との距離を測ってみた。

日付 1/26 2/2 2/9 2/16 2/23 3/2 3/9
高さ(cm) 156 152 164 159 156 155 151

すると、かまくらの壁(や床)は凍結と融解を繰り返しながら、 乾燥してやせていくので、天井は、クリープで下がりながらも、 乾燥で薄くなったぶん、床と天井との相対距離は、 むしろ大きくなったりして、 クリープだけを測ることがうまくできなかった。 ただ、天井や床が薄くなったとしても、せいぜい10cmとかのプラスに しかならないと思うので、 今シーズンのかまくらは、かなりクリープに抵抗できたのではないかと思う。 3/14頃に一気に溶けて、私が中に入って測定することができなくなるまで、 3/9ぐらいまでは、子供が中に入って立てる内部高さを保ち続けたのだから。 気温の低い日がそれなりに多くて、ちゃんと凍結されていた効果も あるのかもしれないが、 高めの尖塔アーチにしたことも、それなりにクリープに効果があったのではないかと 推測している。


2014/1/26


2014/2/9, 2/11


2014/2/23, 3/9


2014/3/14, 3/16


2014/3/15

その後(2022/1/17)

土木環境工学コースfacebookから転載
構造研の後藤です。
 年明けの3連休に下の子(中学生)が、雪ブロックでかまくらを作る作り方を教えてくれというので、それはとうちゃんのウェブサイト(後藤資料)にちゃんと写真入りで解説してあるから、それを読めと言ったら、子供が教えてくれというのに教えてくれないのかと不満を言いながらも、連休2日目に友達と何か作っていたようなので、良かった良かったと思っていたら、数段を重ねたところで、ブロックを傾けられないから、やっぱり手伝ってくれということになってしまいました。
 作り慣れてないことや自分たちの身長を考慮せずに、一段目の半径をだいぶ大きく作ってしまったので、途中から半径を狭めるのになかなか苦労して、上の方は私の身長でも届かず(しかもこっちは五十肩で重いブロックを持ち上げるのはなかなかつらいというのに)、脚立に上がって、内側から子供に支えてもらいながら、なんとか屋根をかけることができました。おかげで、内部は私が立つことができるほどの高さとなりました。
 ちなみに、自重に対して(なるべく曲げが入らずに)圧縮で抵抗する形は、カテナリー曲面になりますが(ちなみに球面は中心方向荷重に圧縮で抵抗する形)、かまくらの場合、クリープで日に日に変形が進行していく影響の方が大きいので、カテナリーや球のような偏平なドームにしてしまうと、秋田のように日中は0度以上の気温になる地域では、クリープでどんどんつぶれていくので、尖塔アーチのように屋根を高くとがらせた方がクリープに対しては強いのではないかと思います(これまで子どもたちにかまくらを作ってきた経験から)。
 連休明けに気温があがって、1月には珍しく一日中雨が降っていたので、これでつぶれるかなと思ったら、意外と持ちこたえました。一週間たっても、私が立てる内部高さを確保できているので、もうしばらくは、中で飲み喰いしたりできるでしょう。


その後(2023/1/19)

土木環境工学コースfacebookから転載
構造研の後藤です。
 昨シーズンの冬は雪がいっぱい降ったので、当時中学2年の下の子が友達とかまくらづくりを始めて、私もそれにつきあわされたという話1)をしたのですが、今シーズンの冬は、割と暖かく雪もあまり降らなくて助かっております。中学3年になった下の子も高校受験で、かまくらづくりどころではないので、今回は去年のかまくらの顛末をご紹介します。私が手伝って、私が内部に立てる高さのかまくらが完成した後、下の子は友達と1基目のかまくらにつなげて、2基目のかまくらを「増築」しようとし始めました。当初の計画では、連結部の壁はぶちぬかずに、2基目に独立の入口を設けようとしていたようですが、それでは面白くないので、連結部の壁をぶちぬいて「奥の間」にすることを提案しました。うちの子としては、連結部の壁をぶち抜くと強度が落ちることを心配していたようですが、1基目の壁に直角に連結された2基目の壁は補剛材の役目を果たしているので、連結部の1基目の壁に孔を開けても大丈夫だと説明し、むしろ2基目の連結部から離れた壁の方が補剛材がなく、そこに入口を設けることによる剛性低下の方が心配だと説得して、結局、連結部の壁をぶち抜いて、2基目の入口は塞ぐ方向で設計変更しました。
というわけで、1基目の入口から入って、ぶち抜いた壁を通り2基目の「奥の間」へと入れるようになっています。折り畳み椅子だのテーブル代わりのケースだのLED照明だのを持ち込んで、一時期は毎晩のようにかまくらでの飲み喰いにつきあわされました。
3月上旬に融け始めて崩壊するまで、1ヶ月以上の供用に耐えました。








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