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構造力学(準備開始)
まずは基礎 (の復習?)

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目次

力の分解・整理

./png/buttai1k.png このテキスト上では、鉛直下方向を$+y$, 水平右方向を$+z$とする$yz$座標を 使っていくことにする。 こんなふうに小さい字で補足説明を書くことにする。 梁の構造力学の座標の取り方には様々な流儀があるが、 鉛直下向きのたわみ方向に$+y$を取るのは一般的だし、 梁軸方向は$x$軸を取る流派が(2次元問題では)多数派だと思うけど、 3次元への拡張を考えた場合、梁軸が$z$軸の方が何かと便利 (断面の断面2次モーメントの計算などを$xy$座標で考えられる) なような気が(今のところ)するので、梁軸をz軸にしておく。 物体(まずは変形しない剛体ということにしておこう)に いろんな向きを向いたいろんな大きさの力がいくつも (簡単のため3つということにしておこう) 作用していたとする。 このように、物体が外部から受ける力を外力と言う。 力の矢印を図示する場合、座標や変位の矢印とは区別して、 図のように閉じた矢印にすることをおすすめするが、 このテキスト上でも統一されていない... こういう場合、 2次元の構造力学の問題では、話を簡単にするため、 物体に作用する様々な力を、

に置き換えてしまうという操作をやることがある。 まずはこれを練習してみる。 ./png/buttai1tyk.png 図のような $f_{1}$, $f_{2}$, $f_{3}$ を$Q$点に作用する $y$方向の力、$z$方向の力、左回りのモーメントに置き換えてみよう。 まずは $f_{1}$, $f_{2}$, $f_{3}$ を図のようにそれぞれ $f_{1}^{たて}$と$f_{1}^{よこ}$, $f_{2}^{たて}$と$f_{2}^{よこ}$, $f_{3}^{たて}$と$f_{3}^{よこ}$ というように 鉛直方向成分$F_{y}$と水平方向成分$F_{z}$に分解してみる。 まず$y$軸方向の力の合計は、$y$軸方向(つまり下向き)が正なので、 下を向いている力にはプラスをつけて、 上を向いている力にはマイナスをつけてから足しあわせると

$y$方向の力の合計: $F_{y}=(-f_{1}^{たて})+(-f_{2}^{たて})+(+f_{3}^{たて})$

となる。同様に$z$軸方向の力の合計は、$z$軸方向(つまり右向き)が正なので、 右を向いている力にはプラスをつけて、 左を向いている力にはマイナスをつけてから足しあわせると

$z$方向の力の合計: $F_{z}=(-f_{1}^{よこ})+(+f_{2}^{よこ})+(+f_{3}^{よこ})$

となる。 もし、 $f_{y1}=(-f_{1}^{たて})$, $f_{y2}=(-f_{2}^{たて})$, $f_{y3}=(+f_{3}^{たて})$ のように正負を軸の向きに合わせて定義すれば、 $F_{y}=\sum f_{yi}=f_{y1}+f_{y2}+f_{y3}$ のように添字で演算できるように書くこともできる。 ./png/buttai1dek.png これらの$y$方向の力の合計$F_{y}$と$z$方向の力の合計$F_{z}$は、 物体のどこに作用させるかで回転運動の仕方には違いが出てくるが、 物体の重心に与える加速度は、 点$Q$に作用させても どこに作用させても同じである。 力を加えられた物体は、物体の重心の回りに回転しながら移動するが、 もし力が重心にのみ加えられるなら回転せずに並進移動する。 ということで、この $F_{y}$と$F_{z}$ を点$Q$に作用させて $f_{1}, f_{2}, f_{3}$による並進運動を代表させることにすると、 回転運動に関して $f_{1}, f_{2}, f_{3}$による作用と同じ作用をする1つのモーメントを 点$Q$に作用させたい。 回転運動に関して $f_{1}, f_{2}, f_{3}$が作用している状態と同じ作用を する1つのモーメントを点$Q$に作用させるためには、 $f_{1}, f_{2}, f_{3}$による点$Q$の回りの モーメントを求めればよい。 点$Q$に作用している$F_{y}$と$F_{z}$は点$Q$回りのモーメントには 関与しない。 点$Q$の回りのモーメントは、 左回り(反時計回り)を正とすると、 点$Q$回りに左回りになるモーメントにはプラスをつけて、 点$Q$回りに右回りになるモーメントにはマイナスをつけて、 たしあわせていくと、

点$Q$回りのモーメントの合計: $M_{Q}=-f_{1}^{たて}e_{1}+f_{1}^{よこ}d_{1} +f_{2}^{たて}e_{2}-f_{2}^{よこ}d_{2} -f_{3}^{たて}e_{3}+f_{3}^{よこ}d_{3}$

となる。 モーメントの向きを(画面を見ている人から見て)左回りにしたのは、 右手系の $x$軸(画面を飛び出す向き)の右ねじまわりと一応は一致させておこうと思ったから。 右手系では、モーメントは座標軸の右ねじまわりで定義されるのが 一般的である(3次元の$x,y,z$軸回りの3つのモーメント $M_{x}, M_{y}, M_{z}$のうち、 二次元で表現できるのは、 画面に垂直な$x$軸回りのモーメント$M_{x}$だけ)。 仮に平面座標に$x,y$座標を用いた場合、 $x$が右向き正で、$y$が上向き正の(中学、高校まででは)一般的な 表記なら、 右手系の $z$軸は画面を飛び出す向きになるから、 右ねじ回りの$M_{z}$は画面を見ている人にとっては反時計回りになる。 構造力学などで、$x$は右向き正だけど$y$は下向き正みたいな座標を 使うと、右手系の$z$は画面の中へ突き進む方向になるので、 右ねじ回りの$M_{z}$は画面を見ている人にとっては時計回りになる。 但し、構造力学で用いられる断面力としてのモーメントの向きは、 後で詳しく述べるように 右手系の向きとは関係ない(梁の曲がるの向きに関係する)ので留意すること。

./png/buttai1yzmk.png 以上より、 $f_{1}, f_{2}, f_{3}$ を$Q$点に作用する $y$方向の力、$z$方向の力、左回りのモーメントに置き換えてみると、 図のようになる。 但し、
$F_{y}=(-f_{1}^{たて})+(-f_{2}^{たて})+(+f_{3}^{たて})$
$F_{z}=(-f_{1}^{よこ})+(+f_{2}^{よこ})+(+f_{3}^{よこ})$
$M_{Q}=-f_{1}^{たて}e_{1}+f_{1}^{よこ}d_{1} +f_{2}^{たて}e_{2}-f_{2}^{よこ}d_{2} -f_{3}^{たて}e_{3}+f_{3}^{よこ}d_{3}$

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力のつりあい

上記の問題で、物体が静止している場合、そのまま静止し続ける (並進移動も回転移動も開始しない)条件は、 物体に作用している外力の合計がゼロになることである。 これは、物体に力が作用しなければ物体は加速度を持たないという 慣性の法則と捉えることもできるし、 $F=ma$の運動の法則で加速度$a$が0と捉えることもできる (厳密にはこれら2つの法則の両方を必要とする結果と 解釈すべき かも知れない が、構造力学ではこの辺の厳密な 解釈は特に問題にはならない)。 もちろん、力が加わらない物体でも等速度運動なら可能である。 構造力学で扱うつりあいの問題は、静止している物体がそのまま静止し 続けるような問題であり、静力学と呼ばれる。 すなわち、 2次元の問題では、
鉛直方向に静止し続ける条件: 鉛直方向の力の合計がゼロ
水平方向に静止し続ける条件: 水平方向の力の合計がゼロ
回転に対して静止し続ける条件: 任意の点についてのモーメントの合計がゼロ
の3つの条件が成り立っているとき、「つりあっている」という。 これを上記の問題について具体的に書けば以下のようになる。
鉛直方向に静止し続ける条件: $F_{y}=(-f_{1}^{たて})+(-f_{2}^{たて})+(+f_{3}^{たて})=0$
水平方向に静止し続ける条件: $F_{z}=(-f_{1}^{よこ})+(+f_{2}^{よこ})+(+f_{3}^{よこ})=0$
回転に対し静止し続ける条件: $M_{Q}=-f_{1}^{たて}e_{1}+f_{1}^{よこ}d_{1} +f_{2}^{たて}e_{2}-f_{2}^{よこ}d_{2} -f_{3}^{たて}e_{3}+f_{3}^{よこ}d_{3}=0$

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練習問題1

./png/ren1.png 図のような物体に作用する3つの力を $Q$点に作用する $y$方向の力、$z$方向の力、左回りのモーメントに置き換えてみよう。
答えつきの問題の例は、 これとかこれとか。

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支承ししょう

上の章は、空中に浮いている物体の話だけど、 土木で対象とする一般的な構造物は、地面や崖(壁)とくっついている。 構造物を地面や壁とくっつけて固定することを「支持する」というけど、 支持するために構造物と地面や壁をくっつけている装置を 支承ししょう という。 支承を構造力学でモデル化する場合には、構造物と地面(や壁)と支点と 呼ばれる1つの点で つなげて支持していると考える。 支点にどのような力(反力)が生じるかによって、 支承にはいくつかの種類がある。 反力については、下で改めて解説するが、 ここでは、 支点が構造物から受けた力の反作用力と考えておいてほしい。

固定支承

梁などが(剛体とみなせるほどに)堅い壁に埋め込んであるのを モデル化したのは固定支承 ./png/kotei.png である(梁の場合には固定端とか埋め込み端とも呼ばれる)。 固定支承には、鉛直方向反力、水平方向反力、モーメント反力が生じる。 ./png/koteih.png 鉛直方向反力は(土木構造物では上向き反力を生じるのが一般的なので) 上向き正で与えられるのが普通である。 水平方向反力は、右方向(梁の軸に沿って取った座標方向)を正とする場合と 梁の軸力の引張または圧縮に対応させて正負を決める場合とがあるだろう。 このテキストでは梁の水平方向反力が生じる問題はそれほど多くは扱わないが、 出てきたときに反力の正の向きを定義することにする。 モーメント反力の向きは、梁の下側が引張になる向きを正にするのが 一般的であろう。すると、両端固定の梁の場合、左端のモーメント反力は 右回りで、右端のモーメント反力は左回りということになるが、 この辺の話は内力の向きのところで改めて詳述する。

ヒンジ支承

モーメント反力が生じないように構造物を支持している点が回転できるように したのがヒンジ支承 ./png/pin.png である。ピン支承とか回転支承とかとも言う。 三角形の積木のてっぺんのとんがったところに、 構造物がのっかるイメージである。 実物のイメージは 画像検索 してみてほしい。 (水平な地面に設置された) ピン支承には鉛直方向反力と水平方向反力が生じる。 ./png/pinh.png 鉛直方向反力は(土木構造物では上向き反力を生じるのが一般的なので) 上向き正で与えられるのが普通である。 水平方向反力は、右方向(梁の軸に沿って取った座標方向)を正とするのが 一般的である。

ローラー支承

ピン支承の水平方向反力 (支承が傾いた地面や壁に設置される場合を考慮するなら、 設置面に平行な反力)が生じないように、 支承が設置面に平行に移動できるようにしたのがローラー支承 ./png/rooraa.png である。移動支承ともいう。三角形の積木の下にローラーが取り付けてあって、 積木が地面に対して水平に移動できるというイメージである。 実物のイメージは 画像検索 してみてほしい。 (水平な地面に設置された) ローラー支承には鉛直方向反力のみが生じる。 ./png/rooraah.png 鉛直方向反力は(土木構造物では上向き反力を生じるのが一般的なので) 上向き正で与えられるのが普通である。

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反力

./png/turiai1zi.png 自重を無視できる物体が、図のようにヒンジ支承とローラー支承で 地面に支持されていて、外力$P$を受けているとする。 このとき、支点に生じる反力を求めたい。

./png/turiai1ki.png 反力というのは、支点が支持している物体から受ける力の反作用力であるが、 支点が物体から受ける力と反力とを一つの絵の中に一緒に書くと (中学や物理の教科書では正にそういう書き方がされていて 私は混乱したものだが)わかりにくいので、支点部分を地面から 切り取って考えることにすると、空中に浮いている物体の支点部分に、 外力が作用していて、物体は静止し続けている(つりあっている)と 考えることもできる。 物体や地面や壁を切り取った場合、切り取った面(切断面)には、 作用・反作用の法則により逆向きで大きさの等しい力がそれぞれ作用している。 このうち、空中に浮かぶことになった支点の側の切断面には、 支承の章で定義された支承の種類に応じた反力が 作用していると考えればよい。 つまり、支点反力というのは、 「空中に浮いている物体が静止し続けていられるように支点に作用する外力」と 考えることもできるし、 「支点直下の地面を切り取ったときに、その切断面に作用する内力」と 考えることもできる。 この辺の考え方は、内力の説明のところで改めて解説する。

./png/turiai1ha.png 力の分解・整理の章の要領で、 外力$P$をたて方向成分$P_{たて}$とよこ方向成分$P_{よこ}$に分解する。 この物体は支点で地面につなぎとめられた「静止し続ける」物体だから、 力のつりあい条件から次の3式がなりたつ。

鉛直方向のつりあい(下向き正): $(+P_{たて})+(-V_{A})+(-V_{B})=0$
水平方向のつりあい(右向き正): $(-P_{よこ})+(+H)=0$
A点回りのモーメントのつりあい(左回り正): $+P_{よこ}d-P_{たて}e+V_{B}f=0$

このように二次元の力のつりあい条件は3本の式で表されるので、 未知数となる反力が3個であれば、力のつりあい条件のみから反力を求めることができる。 例えば、上の例では、
$H=P_{よこ}$
$V_{B}=\frac{P_{たて}e-P_{よこ}d}{f}$
$V_{A}=\frac{P_{たて}(f-e)+P_{よこ}d}{f}$
と求まる。

静定、不静定

このように、力のつりあい条件のみから反力(や部材の内力)を 求めることができる構造物を静定構造物という。 これに対して、力のつりあい条件のみからは反力や内力が求まらない 構造物は不静定構造物といい、力と変形の関係や変形と変位の関係を用いないと 反力や内力が求まらない。 構造物の反力の数から力のつりあい式の数を引いた数を 不静定次数と呼ぶ。 つまり、 上の例のような反力の数が3つで、力のつりあい式の数も3つの静定構造物の 不静定次数は0である。 静定梁にヒンジ(回転する節点)をはさみながらローラー支承を 増やしたゲルバー梁の場合、ローラー支承が増えたぶんだけ反力は 増えるが、ヒンジの左側(または右側)でモーメントの合計が0 というつりあい式もそのぶん増えるので、 反力が4つ以上あっても、不静定次数が0であれば 静定構造物となり得る。

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練習問題2

./png/ren2.png 図の支点$A, B$の支点反力を求めてみよう。

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挿話: 外力と内力の混乱

./png/raketto.png 私は中学の理科でも高校の物理でも、物体に作用する力というのが よく分からなかった。 例えば、中学のときにこんな問題を出された。 図のようなラケットがピンポン玉を打ち付けている絵の中に 「作用する力を書き入れよ」みたいな問題ではなかったかと思う。 で、正解はどんなものだったかよく覚えていないのだが、 確か、ラケットがピンポン玉を押す力とその反作用力として ピンポン玉がラケットを押し返す力は書き入れるべき「作用する力」だったと 思う。その他にもラケットをにぎる手との関係もあったかも知れない。 そして、力の作用点もラケットとピンポン玉の重心あたりに 書かれていたかも知れない。 で、私はその正解を見ても、まるで理解できずに混乱しまくっていた。 というのは、ラケットに接着剤がついていて、ピンポン玉を打った瞬間に ラケットとピンポン玉がねっぱって一体化したらどうなるのだろうかと考えたら、 なにがなんだか分からなくなってしまった。

./png/hakaisi.png 高校のときには、こんな問題を出された。 図のように墓石(だったかなあ?)が3段ぐらい重なっているとき、 それぞれの墓石に作用する力をすべて書き入れよというような問題だったと思う。 そのときの先生は墓石を切り離してばらばらにするとわかりやすくなる と言っていて、ばらばらの墓石に、それ自身の自重や、上の墓石から押される力や、 それらにより下の墓石から押し返される反作用力などなどを書き入れたものが 正解だったような気がするが、この正解も(理解できなかったので)よく 覚えていない。 このときも同様に、接着剤で墓石どうしをねっぱしてしまったらどうなるのか? とか、 墓石の途中を切って分割したらどうなるのか? ということを考えてしまうと、 どうしてそんなふうに都合よく、たまたま墓石どうしのさかいめに作用している 上からの重さと下からの反作用力が、それぞれの墓石に作用していることになるのか、 さっぱり訳がわからなくて混乱していた。

『理科I分野上』〜実験から自然のしくみを見つける〜 (教育出版株式会社、平成18年1月10日発行)p.30の図

./png/kyouiku.png ちなみに、最近の中学の教科書 例えば 『理科I分野上』〜実験から自然のしくみを見つける〜 (教育出版株式会社、平成18年1月10日発行) には、図のように机の上に本がのった写真で、重力と抗力がつりあうことが 説明されている。 重力と抗力を左右にずらして書き入れると(上の墓石の絵が正にそうだけど)、 モーメントがつりあわなくなってしまうので、 抗力の方を太くして、重力と一直線上に書き入れるという工夫をしているのだろう。 それはともかく、机の上にのっているのが本だったりすると、 やはり、私は、この本の135ページ目と136ページ目の間には、 同じように135ページぶんの重力と抗力とが作用していないのだろうかとか、 本と机を接着剤でくっつけたらどうなるのだろうかと考えてしまう。

『物理I』(東京書籍、平成18年2月10日発行)p.150の図

./png/toukyou.png 最近の高校の教科書の例として 『物理I』(東京書籍、平成18年2月10日発行)を見てみると、 重力(地球がみかんを引く力)と引力(みかんが地球の中心を引く力)が作用・反作用の 関係にあり、 みかんが手のひらを押す力と手のひらがみかんを押す力が作用・反作用の関係に あり、 つりあっているのは、重力と手のひらがみかんを押す力という説明になっている。 手のひらがみかんを押す力は、 みかんが手のひらを押す力の反作用力であって、 重力の反作用力ではなない(重力の反作用力は引力だ)ということを 厳密に説明しようとしているのだろうと思う。 でも、この図でも「接着剤のパラドックス」は免れない。 手に接着剤がついていてみかんとねっぱってしまったらどうなるのだろうか? みかんのまんなかあたりに水平に切り目を入れたらどうなるのだろうか? もちろん、どこがくっつこうが、どこが切り離れようが、 作用している力に変わりはない筈だ。 なんか、物体と物体の境目に着目してそこに作用する力だけを ピックアップするのが暗黙の了解になっていないだろうか。 そのせいで中学、高校時代の私は混乱しまくっていた訳だが、 構造力学においては、自分で着目したい部分を意識的に切断して二つの部分に 切り離し、切り離されたそれぞれの系についてつりあいを考えるという 操作を行う。 大学でこのやり方を教わって、ようやく私は中学や高校時代の 物体と物体の境目に作用する力をどう扱えばいいのかが分かった。 物体と物体とを接着剤でくっつけたとしても、 その境目に作用する力は(他の任意の場所で切断した場合と同様に) 「内力」として考えてやればいいのだ。

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簡単な内力の例

棒が図のように空中に浮いていて、上と下から $P$の力で圧縮されていたとしよう。 この棒の適当なところに切れ目を入れて切断して考えてみる。 切り離された上の部分は、上の部分だけでつりあっていると考えると、 上の部分の切断面には、上から押している外力$P$とつりあうような、 上向きに$P$の内力が作用していないといけない。 同様に、切り離された下の部分は下の部分だけでつりあっていると考えると、 下の部分の切断面には、下から押している外力$P$とつりあうような、 下向きに$P$の内力が作用していないといけない。 この切断面は、もともと棒に切れ目が入っていて、 上下から押されてくっついていたと考えれば、 作用反作用の関係が成り立つから、 いずれにせよ、上の切断面に作用する上向きの内力$P$と、 下の切断面に作用する下向きの内力$P$は、 切断面をくっつけるとプラマイゼロで(外力としては)なくなって (見えなくなって)しまう。

では、地面にくっついている棒を上から押してみたらどうだろう。 ちょうど地面のところで切り離してやれば、 上の例と同様に、 切り離された上側の棒の切断面には、上向きの内力$P$が作用し、 切り離された下側の地面の切断面には、下向きに内力$P$が作用しているだろう。 このように棒を地面から切り離したときに、 地面との切断面に作用している内力を棒の「反力」と解釈できる (ここの2つめの解釈)。

さて、この図で、棒から切り離された地面は、 下向きに$P$の内力で押されていることになるが、 この力は、いったいどの力とつりあうのだろうか。 地面だけを考えたときに、 地面に下向きに$P$の力しか作用していなければ、 当然つりあわないわけで、 つりあうためには、上向きに$P$の力も作用していなければならない。 一体どこに作用しているのだろうか。 ちょっと考えてみてほしい。 黒板の右端に私の手が写っているが、これがヒント。 答え (すぐにはクリックしないで、ちょっと考えてみよう)。 要は、棒を下向きの外力$P$で押すとはいっても、 どこかに反力を取らなければ押せないということ。

梁の内力(断面力)

実際の物体は外力を受けると変形してつりあっている。 さて、外力を受けてつりあう物体の任意点の変形を 求めたい場合、 外力と変形とをいきなり関係づけようとすると、なかなか考えにくい。 そこで、物体に外力が作用すると、物体の内部に 外力とつりあうような「内力」という抵抗力が発生すると考える。 すると、「内力」と変形との関係はフックの法則のような材料の特性と して与えることができるので、「内力」を仲介にして外力と変形とを 関係づけることができるようになるのである。

./png/kirumae.png 以下に梁(はり)の内力を定義する。「梁」の定義については、 後で改めて解説するが、 ここでは細長い(と見なせる)まっすぐの棒ぐらいに考えておいてほしい。 今、この棒にいくつかの外力が作用して空中でつりあっているとする。

./png/kirihanasi.png この棒の適当なところを棒の軸線に直角な面で切り、棒を二つの部分に 切り離してみる。 まずは切り離された左側の部分について考えてみる。 棒は切り離される前は、外力とそれによるモーメントの合計がゼロになって つりあっていたが、切り離されてしまうと、 切り離された部分に作用する外力だけではつりあいが成り立たなくなってしまう。 そこで、切り離されたことによってできた切断面に、 切り離された部分だけでつりあうような力が作用していると考えてやる。 切り離された部分がつりあいを満たすように切断面に作用させる力は、 任意の与え方ができるが、扱いやすくするため、 切断面の重心に作用する次の3つの力として与えることにする。

軸力: 切断面に垂直な(軸方向の)1つの力
せん断力: 切断面に平行な1つの力
曲げモーメント: 切断面に作用する1つのモーメント


これらの力は、物体を仮想的に切断したことにより、 (つりあいを満たすために)仮想切断面に作用する力という意味で 「内力」という。 梁部材に限らずこのように物体の内部に作用していると考える力は内力であるが、 梁部材に限定した場合、その断面に作用する上記の3つの力は「断面力」ともいう。 さて、ここまでは切り離された左側の部分について述べてきたが、 切り離された右側の部分の切断面についても、 右側の部分が外力とつりあうように同様に断面力が作用する。 左側の部分の右端の切断面に作用する断面力と 右側の部分の左端の切断面に作用する断面力とは、 作用・反作用の関係により 互いに向きが反対で大きさが等しい力となる。 例えば、左側の部分の右端の切断面に作用する軸力と 右側の部分の左端の切断面に作用する軸力は向きが逆で大きさが等しいので、 切断面どうしをくっつけると、 切断面に作用する軸方向の力の合計はゼロになり、 切断面に外力としては軸方向の力は作用していないことになる。 せん断力や曲げモーメントも同様で、切断面どうしをくっつけてやると、 内力の合計はゼロになり、くっついた切断面には、切り離される前の状態と 同じようになにも外力は作用していないことになる。

./png/nibunkatu.png 構造力学で使われる 断面力の正の向きは座標の正の向きではないので、注意が必要である。 切断面における作用・反作用の関係が分かりやすいように、 左側の切断面と右側の切断面とでは正の向きを逆に定義している。 このように定義した方が、「向きは同じだけど符号が逆」と定義されるよりも 視覚的には考えやすい。但し、 コンピューターで大量の変位自由度を扱う マトリクス法などの有限要素解析の「節点力」においては、 力の向きと座標の向きが一致していた方が便利なので、 「向きは同じだけど符号が逆」の扱いになる。 軸力$N$の正の向きは梁が引張を受ける向きである。 せん断力$S$の正の向きは、左側部分の右端の切断面では下向きが正、 右側部分の左端の切断面では上向きが正である。 曲げモーメントの正の向きは、梁の下側が引張側となる向きが正である。

./png/sanbunkatu.png これらの断面力の正の向きと具体的な変形の向きとの対応は、 切断位置に微小要素を介して、3つの部分に切り分けて考えると わかりやすいかも知れない。 真ん中の微小部分は、正の軸力を受けると左右に引っ張られて伸び、 正のせん断力を受けると左の面は持ち上げられて右の面は持ち下げられてせん断変形し、 正の曲げモーメントを受けると上側が圧縮され、下側が引張られる。

断面力の計算

./png/danmen1.png 図のような簡単な例題について、 梁の軸上の任意点の軸力、せん断力、曲げモーメントを求めて、 それらを図示するまでの基本的な手順をやってみる。

./png/danmen2.png 梁の基礎的な問題の場合は、外力として鉛直荷重しか作用しない問題が多いが、 斜め方向の荷重が作用している場合は、 作用点に作用する鉛直方向の力と水平方向の力とに分解してやる。 支承のところで説明したそれぞれの 支承の種類と反力の正の向きに注意して、 支点Aに作用する鉛直反力を$V_{A}$, 水平反力を$H_{A}$, 支点Bに作用する鉛直反力を$V_{B}$とする。 力のつりあいから

鉛直方向のつりあい(下向き正): $(-V_{A})+(+P)+(-V_{B})=0$
水平方向のつりあい(右向き正): $(+H_{A})+(-\sqrt{3}P)=0$
支点Aまわりのモーメントのつりあい(左回り正): $-P\cdot \frac{L}{2}+V_{B}\cdot L=0$

の3式がなりたつ。未知数は$V_{A}, V_{B}, H_{A}$の3個だから 式が3個あれば解くことができて、

$H_{A}=\sqrt{3}P$
$V_{B}=\frac{P}{2}$
$V_{A}=\frac{P}{2}$

と求まる。

./png/danmen3.png 任意点の断面力を座標の関数として求めるには、座標を決めなければならない。 梁の左端の点を原点とし、軸に沿って右向きに$z$軸を、 下向きに$y$軸を取る($y,z$軸をこの向きに取る理由については 力の分解・整理参照)。 断面力を求めるには、 梁を適当な断面で切り離して考える。 まず、外力の作用点よりも左側の$0\le z \le \frac{L}{2}$の 任意点で梁を左右に切り分け、 切り分けられた左側の部分と右側の部分とでは、 左側の部分の方が作用している力が少なくて考えやすそうなので、 左側の部分だけ取り出して考えることにする (もちろん、右側部分だけ取り出して考えても求まる断面力は 同じである)。 断面力の正の向きに注意しながら、 切断面に軸力$N$, せん断力$S$, 曲げモーメント$M$を書き入れ、 力のつりあいを考える。

鉛直方向のつりあい(下向き正): $(-\frac{P}{2})+(+S)=0$
水平方向のつりあい(右向き正): $(+\sqrt{3}P)+(+N)=0$
支点Aまわりのモーメントのつりあい(左回り正): $-Sz+M=0$

モーメントのつりあいは、支点まわりで考えても切断点まわりで考えても どこで考えても構わないので、作用する力が少なくなる点で考える。 未知数が$N$, $S$, $M$の3個で式が3個だから解くことができて、

$S=\frac{P}{2}$
$N=-\sqrt{3}P$
$M=\frac{P}{2}z$

と求まる。

./png/danmen4.png 次に、外力の作用点よりも右側の$\frac{L}{2} \le z \le L$の 任意点で梁を左右に切り分け、 切り分けられた左側の部分と右側の部分とでは、 右側の部分の方が作用している力が少なくて考えやすそうなので、 右側の部分だけ取り出して考えることにする (もちろん、左側部分だけ取り出して考えても求まる断面力は 同じである)。 断面力の正の向きに注意しながら、 切断面に軸力$N$, せん断力$S$, 曲げモーメント$M$を書き入れ、 力のつりあいを考える。

鉛直方向のつりあい(下向き正): $(-S)+(-\frac{P}{2})=0$
水平方向のつりあい(右向き正): $(-N)=0$
切断点まわりのモーメントのつりあい(左回り正): $-M+\frac{P}{2}(L-z)=0$

未知数が$N$, $S$, $M$の3個で式が3個だから解くことができて、

$S=-\frac{P}{2}$
$N=0$
$M=\frac{P}{2}(L-z)$

と求まる。

目次

断面力図

./png/danmenzu.png 断面力図というのは梁軸を横軸にとった断面力のグラフのことで、 軸力図を$N$-図、せん断力図を$S$-図(とか$Q$-図)、曲げモーメント図を $M$-図という。 軸力図やせん断力図の縦軸は上を正にするのが普通だが、 曲げモーメント図だけは、下を正にする方が一般的なので、 このテキストでも曲げモーメント図の縦軸は下を正にする。 こうすると、 下向きを正とする梁のたわみ曲線の下に凸か上に凸かと曲げモーメント図の 正負の方向が対応するので感覚的にわかりやすい。

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メモ:








$\sum\circlearrowright$とかはないか。 $\sum Q右回り$とか。

ギリシャ文字は大丈夫。 $\sigma_{zz}=E_{zz}\epsilon_{zz}$ $\tau_{xy}=G_{xy}\gamma_{xy}$