以下は、その昔、 私がエスペラント語の講習会などで講師を頼まれたりしたときに、 他の講師の方(特に菊島和子氏)のやり方を参考にして取り入れたりしていた発話練習法であるが、 別にエスペラント語に限らず何語の発話練習にも利用できるだろう。 いずれも、楽しみながら 「ゲーム感覚」で行える発話練習法だと思うが、 だいだい難易度の順に並べてあるので、 下の方に行くほど上級者向きとなる。

3-minuta babilado (3分おしゃべり)

 机を細長く並べて、二人ずつが向かい合って座れるように 椅子を並べる(机はなくてもいい)。 まず、向かい合った人どうしで3分間おしゃべりしてもらう (別に3分でなくても何分でもよい)。 3分経つとベルが鳴るようなタイマーやストップウォッチを使うと 効果的かも知れない。 3分間たったら、おしゃべりをやめてもらい、 全員が一つ右となりの席に移る(一番右端の人は向かい側の席に移る。 左周りでも構わないが)。 そして、新たに向かい合った人どうしで、また3分間おしゃべりをする ……という具合に相手を変えながらおしゃべりをしていく。 会話能力の水準に大きなばらつきがあるような場合でも使える。

3-minuta babilado kun temo (話題あり3分おしゃべり)

 上の「3分おしゃべり」と同じやり方だが、 おしゃべりを始める前に、向かい合った二人一組に一枚ずつ 単語の書かれたカードを(単語の書かれた面を下にして)配る。 カードには、kuirado(料理)、 viando(肉)、muziko(音楽)、hobio(趣味)、memoro(思い出) などの単語が書かれていて、おしゃべり開始の合図とともに、 カードをひっくり返して、そこに書いてあることを話題にして おしゃべりする。3分間が終了したらカードを回収し、別のカードを配る。

 輪になって座り、一人に一枚ずつカードを配って一人ずつ、そのカードに 書かれたことを主題にして3分演説をしてもらうというやり方もあるが、 これだと単位時間当たりに一人が発話する量が減るので、「3分演説」は むしろ部屋の中で一人でやるのに適した練習法であろう。

Kio mi estas ? (私は何ですか)

 一人が頭の中で、自分がある物(「便器」とか、「水」とか、「動物」とか)や 有名な人物や更に抽象的なものごと(「音楽」とか、「不幸」とか、「恨み」とか) を演じることに決める。 他の人たちがその人に一人ずつ、 「あなたは食べ物ですか」とか「この部屋にもあなたはありますか」とか 色々と質問をしていき、その人は、 「食べようと思えば食べれないこともないかも知れません」 とか 「今はこの部屋にはありませんが、さっきまではありました」 とかと答えていき、「その人は何か」を当てるという遊び。

Rakonto-farado (お話つくり)

 輪になって座り、一人が「昔、昔、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」とかと話を切り出したら、 隣の席の人がそれに続けて 「おじいさんは川に洗濯に、おばあさんは家で寝てました」 みたいに、一人が一文ぐらいずつ順番に話を作りながら繋げていく。

Desegno-diveno(絵当て)

 ○や□や△など、割と簡単な幾何学図形で構成された 簡単な図形の描かれたカードを用意する。 全員に紙と筆記用具を配る。 一人に、図形の描かれたカードを配り、 どのような図形が描かれているかをエスペラントで説明してもらう。 他の人は、その説明を聞きながら、 その図形を紙に描いていく。 説明がよく分からない時は、質問していい。 みんなが紙に描かいた図形を見て、図形の説明が的確に伝わったかどうかを 見る。

Kie estas via domo ?(あなたの家はどこ)

 全員に紙と筆記用具を配る。 黒板(白板)に簡単な地図を描く (真ん中ら辺に出口のいっぱいある駅を置き、 橋や川やトンネルなどの目印を適当に配置する)。 全員が同じ地図を自分の紙に写す(最初から地図の絵を 複写して人数ぶん用意すれば、この手間は省ける)。 一人が、自分の地図上の何処かに、他の人に分からないように、 自分の家を記す。 他の人たちは、たった今、駅に着いたばかりという設定で、 駅からその家の住人に電話をして家の場所を教えてもらう。 初級編としては、東西南北が分かるようにした方がいいだろうが、 方角が不明で目印だけで誘導しなければならなくなると、難しくなる。

Ĉio-kona ĉiĉerono/gvidisto (何でも知ってる案内人)

 歴史的な遺跡の写真集とか、 自然の景色の写真集とか、 なんでもいいからできるだけ様々な場所が載っている写真集や画集を 用意する。輪になって座り、 その写真集(画集)の中の適当な一頁を開く。 一人が、その頁に描かれた場所の案内人となり、 他の人たちはその場所を訪れた観光客となる。 案内人はその場所について何でも知っていなければならず、 観光客からの質問には全て瞬時に的確に答えなければならない。 勿論、案内人はいくらでも嘘を言っていい。 例えば、写真の中の場所が本当はローマの遺跡だとしても、 核戦争後の地球にタイムマシンで訪れてきたのだという設定にしてもいいし、 海底都市とか他の惑星ということにしてもいい。 観光客たちは間をおかずに次から次へと出来るだけ 返答に困るような質問をする。 「ここには生物はいるのですか」 「はい地底人が住んでいます」 「地底人は何語を喋るんですか」 「地底人語を喋ります」 みたいに進んでいって、 「その地底人の間で流行っている歌を地底人語で歌って下さい」 と言われたら案内人は、ちゃんと歌わなければならない。

Sperta tradukisto/interpretisto (熟練通訳)

 輪になって座り、一人がエスペラントを話せない日本人労働者、 一人がエスペラント−日本語間の熟練通訳、他の人たちは、 日本人労働者の職場を訪れた外国人エスペランチストになる。 外国人は「あなたの仕事は何ですか」とか 「何人ぐらいの人がここで働いているのですか」とかエスペラントで質問し、 その度に熟練通訳はそれを日本語に訳して労働者に伝える。 労働者は、自分の現実の職場のこと(学生なら学校のこと)でもいいし、 架空の職業をでっちあげてもいいから日本語で返答する。 熟練通訳はそれをエスペラントに訳して外国人に伝える。 熟練通訳は「熟練」なので、分からないエスペラントの単語や エス訳できない日本語の単語とかがあっても、 適当にごまかし切らなければならない。

Po-unu-paĝa traduko (一頁ずつ翻訳)

 参加者の水準に応じて、幼児向けの童話などの絵本を用意する。 多くの場合、 一頁に数行ずつ、ひらがなだけで書かれている 四歳児以下向けのものとかが適している。 輪になって座り、 「ももたろう」とか「いっすんぼうし」とかの絵本を一人 一頁ずつ口頭でエスペラントに訳していってもらう。 このとき、 輪の中心に、四歳児ぐらいのデナスカ(生まれながらの)エスペランチスト がいるという想定で、難しい単語は通じないということにしておくのも いいかも知れない。 というのも、人によっては「家来」とか「赤ずきん」とかを、 そのまま日エス辞典で引いて、 vasalo とか rug^-kufo などという難しい単語を使ってしまうからだ。 四歳児には(大人のエスペラントの中級者にも)こんな難しい単語は通じない。 例えば「家来」だったら、文脈に応じて serv-isto(仕える人)とか akompan-anto (同伴する人)とか 更には labor-isto(働く人)とかいくらでも言い換えることはできるし、 「赤ずきん」にしても rug^a kap-kovrilo(赤い頭の覆い)とか ruĝ-ĉapo(赤帽子)とか ruĝa kap-sako(赤い頭の袋)とか いくらでも言い換えることはできる。 こういうふうに簡単な表現に言い換える訓練は、 やたらと難解なラテン系の単語 を使いたがる上級のエスペランチスト にこそ必要かも知れない。 この翻訳練習は部屋の中で一人ででもできる。

追記:英語はエスペラントに比べても漢字熟語に比べても 造語の自由の少ない言語ではあるが、 それでも眼科を ophthalmologist のような難解語ではなく、 eye doctor のような日常語の組み合わせで表す程度のことは十分にできる。